2004年のベスト10です

読んだら燃やせ. この映画を見終わるとこのタイトルがこのお話の「戒め」であることが十分に理解できるのではないでしょうか. 『ノーカントリー』 でよくやく一般からも認識されたとはいえ、基本的にブラックなコメディばかりの コーエン兄弟 . 不慣れな方には厳しかったかも知れませんが、コーエン好きにはたまらなく面白い映画でしたよ. OPから世界を股に掛けるスパイ映画並みの雰囲気を見せてくれる割にはワシントンD.C.だけで話が進む滑稽さがまず楽しいです. しかも酒への愛と妻や職場のCIAへの恨みだけで動いているジョン・マルコヴィッチが解雇されるシーンで時計の秒針音が妙に響くのを「この映画で登場人物に感情移入なんてできませんよ. 一歩引いた感じで見てくださいね. 」という観客へのメッセージとして巧く用いているところがコーエン兄弟の演出の巧さなんですよね. さらに不倫と不倫と優柔不断のジョージ・クルーニーが不倫デートで保安官の仕事から頭より体が先に反応してしまうとネタを振った直後に別の不倫相手の寝室でどえらいことをしてしまう巧さもさすがコーエン兄弟. 不倫と離婚で再婚するはずだったティルダ・スウィントンもキャリア女性の傲慢さから恋人も仕事での信用も失ってしまったり、整形と出会い系サイトに心血を注ぐフランシス・マクドーマンドも次々と自分の周囲とロシア大使館を巻き込んでは徐々に自分しか見えなくなっていく様も「おかしくて、哀しい」コーエン兄弟のコメディならではの面白さ. でも一番面白かったのはやはり善人すぎる筋肉バカのブラッド・ピットが電話や車中で脅迫しているのになぜか毎回言い負かされるくだりでしたよ. もうホンマにアホやわ~と思うほど、難しい話になると頭が回転していないことが丸分かりの仕草がたまらなく面白く、また車の中から見張りをしているシーンも、ターゲットよりもiPodに夢中になって踊っている姿がかなり滑稽でしたよ. そんなアル中、優柔不断、傲慢、整形、能天気という5人が不倫や脅迫といった矛盾や闇で構成されているようなアメリカ社会の中で必死にあれこれ動いても、所詮は全てCIAの手のひらの上で片付けられるようなことばかりというラストも非常にコーエン兄弟らしくて面白かったです. 特にJ.K.シモンズの「整形代くらい払ってやれ」の面倒臭がっている仕草が最高. CIAにとってはその程度のことなのに、この5人がこんな結末を迎えているなんて、本当に「哀しくて、おかしい」ですよ. ただこの映画で一点だけ不満があるとすれば、それはジョージ・クルーニーが作ったあの発明品が実用化されることがなかったこと. あんなバカげた椅子、思い出すだけで今も笑いが止まりませんよ. 『レディ・キラーズ』や 『ファーゴ』 のように始めは難なく進むはずだった計画が勘違いや不運で云々というコーエン兄弟ならではのコメディ. コーエン好きとしてはできれば有名キャストではなく、コーエンファミリーで描いてくれた方がもっと楽しかったかな? という気も少ししましたが、かなり面白かった映画でした. 深夜らじお@の映画館 はコーエン兄弟の作品が大好きです. 自分の映画人生を振り返ってみよう企画第7弾はハリウッド映画が全然面白くなかった一年だった2004年です. 対象期間に関しては今回もまたアシッド映画館シネマグランプリ規約に則り、2003年12月~2004年11月までとしております. 1 オールド・ボーイ 2 ブラザーフッド 3 SAW 4 APPLESEED 5 ラブ・アクチュアリー 6 シルミド 7 パッション 8ラブストーリー 9永遠の片思い 10殺人の追憶 この年はハリウッド映画よりも韓国映画を始めとするアジア映画が面白い一年でした. 私が選んだ10本以外にもトニー・ジャーの凄さにびっくりしたタイ映画の『マッハ! 』やカンヌで柳楽優弥クンが最年少で主演男優賞を受賞した 『誰も知らない』 も凄く印象的でした. そして姫路に縁のある者としてはやはり 『ラスト・サムライ』 も忘れられない一本でしたね. 書写山円教寺も一度訪れないと. とにかくアジア映画が新時代を築き始めた印象が強かった一方で、韓国映画好きとしては韓流ブームの悪影響で駄作までも日本で公開されるようになり、徐々に韓国映画の時代の終わりを感じていたことも忘れられない一年でした. てな訳で追記にはアシッド映画館シネマグランプリ2004の結果も記載しておきますので、ご参照ください. 深夜らじお@の映画館 は「アルグレンさん! 」というセリフを聞くと泣けます. ※過去のベスト10 1998年 、 1999年 、 2000年 、 2001年 、 2002年 、 2003年. アキ・カウリスマキ監督の作品はどれも地味で独特の間を有する不思議なものばかりです. 日本の小津安二郎監督の影響を多大に受けた一人とも言われるこの監督は、昨今ハリウッド化するヨーロッパ映画界にあって唯一ヨーロッパ映画らしい芸術性重視の映画を作り続けてくれる貴重な存在だと思います. 物語は暴漢に襲われ記憶を失った男がとあるコンテナ暮らしの一家に助けられるところから始まります. 自分が誰かも分からないのに穏やかな暮らしをさせてくれるそんなある日、彼は金曜日なるとスープを支給してくれる救世軍の女性イルマと運命的な出会いをします. やがてイルマと親密になるも彼にも本当の家族がいることが分かり、家族が迎えにきてくれるのですが・・・という一見、過去に一度あったようでなかったお話です. 記憶を失くすということは悲しいことですが、それは同時に一度自分をリセットできることでもあるんですよね. 私はこれまで見てきた映画の知識や愛犬との思い出を失いたくないので記憶喪失にはなりたくないのですが、それでも過去にばかり囚われずに常に前向きに物事を考えるこの主人公はすごいなぁ~と感心してしまいます. でももっとすごいと感心してしまうのはこの監督の映画監督としての力量です. 大の寿司好き、特にワサビが大好きだというこのアキ・カウリスマキ監督の映画に登場する人物はいつもみんな無表情なのに、なぜかすごく感情豊かなのが不思議でなりません. 爆笑するユーモアもない、感情が大いに揺さぶられるシーンもない、時にはすごく眠たくなる・・・なのに、すごくこの監督の作品は気になってしまうのですよ. あの会話と会話が一瞬途切れたかな? と思わせるような独特の間. 映像の色彩や選曲の良さ. 若い俳優や美形俳優を用いなくてもしっかりと観客を映画という世界に引っ張り込んでくれるその監督力は、今や世界中のどの映画界を見渡しても真似できる人はいないと思えるくらいです. フィンランド人は日露戦争でロシアが敗れてから日本に対して好印象を持つようになったと言われていますが、小津安二郎の影響を多大に受けているあたり、この監督もどうやら日本がお好きなようですね. 日本映画界ではもはや小津安二郎の世界観を引き継ぐ者がいない昨今、是非このアキ・カウリスマキ監督にその小津ワールドをさらに極めてほしいと願うばかりです. 深夜らじお@の映画館 の映画で世界一周も欧州編突入です.